大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

青森地方裁判所八戸支部 昭和34年(ワ)36号 判決

原告

右代表者法務大臣

井野碩哉

右指定代理人

滝田薫

同 清水忠雄

八戸市大字鷹匠小路八番地

被告

有限会社 光和商事社

右代表者代表取締役

原田末五郎

右訴訟代理人弁護士

川村彌永吉

右当事者間の詐害行為取消請求事件につき、当裁判所はつぎのとおり判決する。

主文

一  訴外八戸協和興業株式会社と被告との間に、昭和三十二年五月二十日、別紙目録記載の不動産につき為した売買を取消す。

二  被告は、前項記載の不動産につき、青森地方法務局八戸支局昭和三十二年五月二十日受付第五、一四二号をもつて為した同日付売買による所有権移転登記の抹消登記手続をせよ

三  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求の原因として、

一  訴外八戸協和興業株式会社(以下協和興業という)は、八戸市大字鷹匠小路八番地において、二箇の興業場を経営していたものであるが、昭和三十二年四月末日現在すでに納期の到来した法人税、源泉所得税及び入場税合計金七、〇五三、〇四四円を滞納しており、これを原告(所管仙台国税局)に納付する義務を有していた。

二  しかるに、協和興業は、所轄八戸税務署長の再三の督促にもかかわらず右税金を納付しないため、原告(同署長)は、同社所有財産を差押え、昭和三十二年五月六日付公売通知書及び差押物件見積価格通知書をもつて催告したうえ、同年五年二十一日及び翌三十三年三月二十七日差押物件の公売を行い、その売得金を右滞納税金の一部に充当したので、その租税債権は、昭和三十四年三月三十一日現在においてなお金四、四〇八、一三八円残存となつた。

三  この間協和興業は、前記公売予定物件の価額が、滞納税金額の半ばにも達しない事実を知悉しながら、右公売通知書受領後間もなく昭和三十二年五月二十日、爾後の滞納処分の執行を免れる目的を以つて、その所得にかかる別紙目録記載の不動産(以下本件不動産という)を被告会社に譲渡し、同日その所有権移転登記手続を了し、かつ前記滞納国税のみを除外した協和興業の債務金一五、二七〇、〇〇〇円を被告会社において免責的に引受ける旨をも特約した。

しかして右物件は協和興業の全資産であり、他に何等の財産も残されていない。また被告会社は、右不動産を譲り受ける前々日協和興業代表取締役泉山重吉の興業界における配下である大友克己を代表取締役として設立されたものであつて、協和興業が前記滞納処分の執行を免れる目的を以つて、右不動産を譲り渡すものであることを熟知しながらこれを譲り受けたことが明らかであるから、原告は国税徴収法第一五条に基き、協和興業と被告間の本件不動産に関する前記譲渡行為を取消し、その所有権移転登記の抹消登記手続を求むるため本訴に及んだと述べ、立証として、甲第一号証ないし第三号証、同第四号、第五号証、第六号証の各一、二、三及び同第七号証ないし同第一八号証、同第一九号証の一ないし五、同第二〇号証の一ないし四、同第二一号証の一ないし六、同第二二号証ないし同第二五号証を提出し、証人佐野敬二、同吉田栄次郎の各証言を援用し、乙第一号証は不知と述べた。

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁として、原告主張の請求原因事実中訴外協和興業が八戸市内において二箇の興業場を経営していたこと、被告会社が原告主張の日時に同訴外会社から本件不動産を譲り受け、その所有権移転登記手続を経たこと並びに同訴外会社との間に同訴外会社の債務金一五、二七〇、〇〇〇円を引受け弁済する旨約したことは認むるけれども、その余の事実は争う。被告会社は前記訴外会社との債務引受契約にもとずき昭和三十二年五月十九日から同三十三年三月三十一日までの間において、同訴外会社の債務金一五、二〇三、九四〇円の内、訴外三戸県税事務所外六三名に対する債務金八、九三七、五二〇円をすでに弁済した、かように被告は協和興業との約旨を履行しつつあるものであり、決して原告の滞納処分の執行を妨げる目的をもつて本件不動産を譲り受けたものではないと述べ、立証として乙第一号証を提出し、被告代表者原田末五郎尋問の結果を援用し、甲号各証の成立を認めると述べた。

理由

訴外協和興業が、かねて八戸市内において二個所の興業場を経営していたことは当事者間に争がないところ、当事者間その成立につき争のない甲第四、第五、第六号証の各一ないし三、同第七号証ないし同第十八号証、同第十九号証の一ないし五、同第二十号証の一ないし四、同第二十一号証の一ないし六および証人佐野敬二、同吉田栄次郎の各証言を総合すれば、同訴外会社は、昭和三十二年四月末日現在において昭和二十九年から三十年までの入場税及び同二十六年、二十七年、二十八年、二十九年の更正決定にかかる法人税、源泉所得税等合計金七百五万三千四十四円を滞納しており、原告に対し、これを納付すべき義務を有していたことが明かである。

また当事者間その成立につき争のない甲第二十四号証及び佐野敬二、同吉田栄次郎の証言を総合すれば、右訴外協和興業は、前記入場税、法人税等滞納のため、原告から昭和三十年九月十六日、十七日、同三十一年五月十六日同年七月十七日の四回にわたりその所有にかかる建物等本件不動産を除きその余の資産一切(本件不動産は当時県税滞納のため青森県から差押えられていたので、原告の滞納処分を免れた)を差押えられ、同三十二年五月六日附公売の通知、催告を経た上、同年五月及び翌三十二年三月頃公売され、その売得金を以つて右滞納税金の一部に充当したが、滞納税金がなお金四〇八、一二八円残存するに至つたことが認められる。

ところが前記滞納処分による公売通知(昭和三十二年五月六日)後同年五月二十日滞納会社訴外協和興業は、被告に対し、その所有にかかる本件不動産を譲渡し、同日その所有権移転登記手続を了したことは、当事者間に争がない。

しかし当事者間その成立につき争のない甲第二十二号証、同第二十三号証、同第二十五号証、証人佐野敬二、同吉田栄次郎の各証言を総合すれば、(1)当時協和興業は、借財が嵩んでその経営が困難になつたため、同社取締役泉山重吉、同天内嘉四等と、泉山とは共に露天商組合員で懇親の間柄にある訴外大友克己(被告会社設立当初の代表取締役)、同じく所謂その弟分原田末五郎(被告会社設立当初の監査役、後大友克己の後を承けて同社代表取締役)等が相謀り、昭和三十二年五月十八日被告会社を設立して、原告が差押中の協和興業の映画館及び映写機等を競落取得し、引続き映画経営することとし、(二)当時協和興業に付、入場税等の滞納があることを熱知しつつこれを除外した右訴外会社その余の債務一切を被告会社において、引受けることと定めて、(3)その翌々日同月二十日前記青森県が差押中(後その滞納処分が解放された)のため、訴外会社に残された唯一の資産である本件不動産をも右訴外会社から譲り受けたことを認めることができる。

右経緯に徴すれば訴外協和興業は、前記滞納処分を免れる目的を以つて、本件不動産を譲渡し、被告会社また当時その情を知悉しながらこれを譲受けたものと推断するに充分であるといわなければならない。被告会社がその主張の如く協和興業との前認約旨にもとずき、その後、引受債務の弁済につとめつつあるという如きは、何等右認定を妨げるものではないし、その他右認定を左右するに足る証拠は何もない。

以上の次第であるから、訴外協和興業と被告会社との本件不動産の譲渡行為の取消及びこれが回復としてその所有権移転登記の抹消登記手続の履行を求むる原告の本訴請求は正当としてこれを認容し、訴訟費用の負担については、民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 工藤健作)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例